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2012年10月3日
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悩める次の中軸 太陽光、先行国に陰り

「今年も暑くなりそうだ。やってみるか」。愛知県春日井市に住む会社員、松田健治さん(32)は4月、自宅のオール電化を決めた。屋根に太陽光発電パネルをつけ、省エネに努めた結果、8月の光熱費は7500円。7月の電気・ガス代に比べ3分の1で済んだ。

太陽光パネル事業の不振で破綻した米ソリンドラの本社(カリフォルニア州)=AP
 連日照りつけた太陽光で発電した電気を地元の電力会社に売り、3万円も懐にした。設備にかかった約200万円の大半をローンで賄った松田さんはひとまず手応えを感じている。

 副収入の裏には仕掛けがある。政府は7月に再生可能エネルギーを固定価格で買い取る制度を導入。太陽光や風力による発電で余った電力は、高めの価格で売れるようになった。

■怪しい達成手段
 再生エネの買い取りに伴う費用は電気料金に上乗せされ、8月から標準的な家庭で数十円上がった。電力中央研究所は国民が薄く広く負担する額を初年度で2600億円とはじく。そんな重荷を知りながら政府は9月の新戦略で原発稼働ゼロとともに「再生エネの2030年の発電量を10年の3倍」に増やす目標を掲げた。だが達成手段は怪しい。

 ▼すべての新築一戸建てに太陽光パネルを載せる

 政府は30年まで毎年、約40万戸の建設を想定する。10年で設置済みは90万戸にすぎず、パネルの義務付けなど法的な裏付けも欠く。

 ▼風力発電所の設置面積を東京都の1.6倍に

 10年の設置面積は約244平方キロメートルで、都の約10分の1。急速な拡大には「高めの買い取り価格を続けることが条件」と政府やメーカーは予想する。

 政府は再生エネを増やすのに必要な投資額を約120兆円と見積もる。慶応大の野村浩二准教授は「政策を前倒しして普及を急げば将来の世代に負担が回る。電源比率で再生エネを3割台に高めるのは現実的でない」と指摘する。

■はじけたバブル
 日本とは逆に、欧米は揺り戻しの過程にある。先行して「太陽光バブル」に酔ったのはスペインとドイツだ。スペインではサパテロ前政権が07年に太陽光発電の買い取り価格を高めにすると、補助金を目当てにした投資が急膨張。料金への転嫁を逃した電力各社の経営が軒並み傾き、今年2月に買い取り中断を決めた。

 スペインを教訓に買い取り価格を段階的に下げたドイツは国内の関連産業がすたれる悪循環に直面した。太陽電池で成長したQセルズが今年4月、破産申請。債務危機で優劣が分かれる両国はエネルギー振興の点で悩みを共有する。

 米国ではオバマ政権が債務保証で支援したソリンドラなど太陽光パネルメーカーの破綻が相次ぐ。11月の大統領選を争う共和党のロムニー陣営は「無駄な支出で失政だ」と攻撃。オバマ大統領は「ソーラーパワー」を口にしなくなった。

 民主党の細野豪志政調会長は環境相を務めていた9月12日、横浜市のJパワー磯子火力発電所を視察。「石炭火力は減らす流れだったが、効率次第で見直す余地はある」と認めた。

 電力供給で頼れる火力は温暖化対策には逆効果だ。温暖化防止の旗を振ってきた細野氏の発言に、環境省幹部は「寝耳に水」と苦り切る。ただ次の中軸として再生エネに不安があるなら用心や備えは欠かせない。

(記事:日本経済新聞)

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