
日本初、メガソーラー証券化
瀬戸内市は世界最大規模のメガソーラーを証券化する。発電所の所有と運営を分離することで、撤退リスクを排除。メガソーラーを入り口に、永続的な地域の活性化を目指す。
9月13日、岡山県瀬戸内市は大規模太陽光発電所(メガソーラー)計画の委託事業者を採択した。7月から公募して17もの提案が寄せられたが、最後に市が選んだのは、くにうみアセットマネジメント(東京都千代田区)や日本IBM、NTT西日本、ゴールドマン・サックス証券、ジャーマン・インターナショナル(横浜市)ら7社の事業計画だった。
企業だけが儲かる計画は受け入れない――。瀬戸内市は、そんな公募条件を強調してきた。事業の舞台となるのは、かつて東洋一の規模を誇った錦海塩田の跡地。広さは約500ヘクタールで、瀬戸内市の約25分の1を占める。
採択された計画では、総事業費が656億~861億円に上る。総出力は25万キロワットと世界最大級の規模を目指す。だが、最大の特徴は、「日本初のメガソーラー証券化」にある。
再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度は、メガソーラーの場合、発電事業者から電力を20年間にわたって電力会社が一定の金額で買い取るもの。多額の設備投資を必要とするため、参入する発電事業者にとって、資金調達が高いハードルになると見られた。
だが、メガソーラーを証券化すれば、個人や企業に金融商品として売却して資金を集められる。証券化の詳細は明らかになっていないが、売電の収益が投資家に流れてくる。これを目当てに1500兆円の個人金融資産や公的年金が購入に動くことが期待できる。
自治体にとっては、メガソーラーの所有と運営を分離できるメリットがある。メガソーラーの所有者は証券を購入した個人や企業になる。一方、運営は発電事業者が担うが、もし20年のうちに事業者の経営が傾いても、一方的に撤退してしまう危険は回避できる。桑原真琴・瀬戸内副市長は、「証券化によって、自治体が単一企業と心中しなくて済む点を高く評価した」と明かす。錦海塩田は、かつて運営企業の撤退で、荒れ地に変わった。メガソーラーで同じ悲劇を繰り返すわけにはいかない。
メガソーラーで、市は年間2億円ほどの土地使用料と固定資産税などが入ってくる。一般会計の予算が約145億円だから、財政効果は小さくない。
だが、それ以上に期待されるのが街の活性化だ。足元では、建設に伴って地元の建設関係業者が潤い、作業者の宿泊や飲食といった経済効果もある。
今回の計画には観光戦略も盛り込んでいる。メガソーラーを視察する「技術観光」を中心に、訪問者に地域の魅力を伝えリピーターを増やしていく。その先に、市の人口を増やす施策を練る。採択した事業者には、観光誘致に長けたコンサルタントも名を連ねる。
コンテンツ産業を誘致する計画もある。何千台というサーバーをメガソーラーの近くに設置して、コンテンツ制作を手がける企業の誘致を目指す。
「錦海塩田を豊かな海には戻せないが、単なる工業用地にはしたくなかった」(武久顕也・瀬戸内市長)
瀬戸内市民にとって、塩田跡地の存在感は大きい。塩田事業をやめて40年。産業廃棄物最終処分場として利用された時期もあり、以前の海に戻すことは難しく、長らく塩漬けの土地になっていた。メガソーラーの証券化を機に、観光やコンテンツ産業の誘致を実現できるか。地方都市の挑戦は、大きな一歩を踏み出した。
(記事:日経ビジネス)